症例

2023.09.20

乳癌の症例と治療

  • 早期発見ならば決して恐れる病気ではないはずの乳がん。
  • 乳がんは女性で最も一般的ながんであり、早期発見の乳がんは5年生存がほぼ100%なのに、肺がんに次いで女性のがん死因の第2位である[1]。原発性乳がんのほとんどは、画像検査後の乳房生検によって最初に診断されます。
  • なぜ、乳がんで命を落とすのか?

再発・転移とは

  • 「再発」とは、手術や薬物療法などの治療により目に見える大きさのがんがなくなった後、がんが再び出現してくることをいいます。乳がんの場合は、手術後2、3年もしくは5年前後くらいに起こることが多いものの、10年から20年を経過してから再発することもあります。
  • 手術をした側の乳房や胸壁、その周囲の皮膚やリンパ節にがんが再発することを「局所再発」といいます。
  • 一方、「転移」とは、がん細胞が元あった場所から血液やリンパ液を介して遠隔臓器に運ばれ、そこでがんが出現することをいい、「遠隔転移」とも呼ばれます。乳がんで遠隔転移が認められた場合の病期はⅣ期と診断されます。

症状のあらわれる時期は?

  • 再発の時期や症状には個人差があり、明確な時期を示すことは困難です。 4000人以上の乳がん患者さんを20年以上追跡し、その間の再発率などを分析した海外の研究では、治療後はじめの5年の再発率が最も高くなっています。しかし治療から20年以上が経過してから再発した例もわずかにありました(2) 治療後の再発を過剰に恐れることはありませんが、上に挙げたような症状にすぐ気づけるよう、普段から自分の身体をいたわってあげましょう

2)Colleoni M, et al.: J Clin Oncol. 2016;34:927-35.

乳癌4種複合遺伝子治療(症例1)

1 )PTEN⇔AKT、MDM2阻害。
2 )P53の活性化。
3 )Cdc6shRNA、p16でRbの活性化。
4 )PTEN&P16 ⇔細胞増殖シグナル阻害

症例1)2008年4月治療開始ステージⅡ:腫瘍周辺から局所注射で乳がんを縮小させた症例

乳癌4種複合遺伝子治療(症例1)

新しい遺伝子治療:乳癌8種複合遺伝子治療(症例2)

新しい遺伝子治療:乳癌8種複合遺伝子治療(症例2)

症例2)ステージⅣ:乳癌全身転移に対するレスキュー的治療

症例2)ステージⅣ:乳癌全身転移に対するレスキュー的治療

治療前 治療開始1w後 治療開始6w後
WBC /μℓ 5080 9000 8200
RBC 326 360 304
PLA 10 ₄/μℓ 30.3 62.4 43.5
Stab 360(4%) 328(4%)
Seg 4473(80%) 7200(80%) 6355(77.5%)
Baso   123(1.5%)
Eosino 123(1.5%)
Lymph 609(12%) 855(9.5%) 820(10%)
Mono 254(5%) 405(4.5%) 451(5.5%)
腫瘍マーカー 治療前 集中治療6W 集中治療6W
CA15-3 41 38.8 32.4
CEA 2.7 26.6 2.2
CA19-9 6.7 8.6 6.4

遺伝子治療では、治療後腫瘍マーカー上昇が観察されて、ある段階から下がり始めるような傾向が観察されます。
集中治療の後、2週間インターバルの治療に移行 自己注射RNA療法で通院と在宅治療の組み合わせで治療を継続

乳がんについて

ルミナルAとは、乳がん組織にエストロゲン受容体とプロゲステロン受容体が発現しているがHER2は発現しておらず増殖能の低いタイプです。 ルミナルBは、エストロゲン受容体は発現しているが、プロゲステロン受容体とHER2は発現している場合としていない場合があり、増殖能の低いものと高いものがあります。

家族性の遺伝性乳がんの中で最もよく知られているものは、BRCA1またはBRCA2遺伝子に先天的な異常のある遺伝性乳がん卵巣がん症候群です。BRCA1、BRCA2は、DNAの二本鎖が切断された場合に相同組み換え(図4)によるDNAの修復機構に関わるがん抑制遺伝子です。
日本における乳がん患者で、BRCA1遺伝子に異常がある患者は1.4%、BRCA2遺伝子に異常がある患者は2.7%であるという報告があります。BRCA1遺伝子に異常のある乳がんでは、女性ホルモン受容体もHER2も発現していないトリプルネガティブ乳がんが多いことが分かっています。

BRCA1/2遺伝子異常は遺伝性乳がん卵巣がん症候群

HBOC):hereditary breast and ovarian cancer syndromeといいます。

BRCA1およびBRCA2の変異は、ほとんどの遺伝性乳がんの原因であると考えられており、これはすべての乳がん症例の5〜10%を占める。4人以上の乳がん症例を有する家系の約52%がBRCA1の変異を継承しており、32%がBRCA2変異を有する。(3)

BRCA1およびBRCA2の変異は、ほとんどの遺伝性乳がんの原因であると考えられており、これはすべての乳がん症例の5〜10%を占める。4人以上の乳がん症例を有する家系の約52%がBRCA1の変異を継承しており、32%がBRCA2変異を有する。 5..Ford D, Easton D F, Stratton M, Narod S, Goldgar D, Devilee P, Bishop D T, Weber B, Lenoir G, Chang-Claude J, et al. Am J Hum Genet. 1998;62:676–689. [PMC free article] [PubMed] [Google Scholar]
3.. Ford D, Easton D F, Stratton M, Narod S, Goldgar D, Devilee P, Bishop D T, Weber B, Lenoir G, Chang-Claude J, et al. Am J Hum Genet. 1998;62:676–689. [PMC free article] [PubMed] [Google Scholar]

BRCA不良らしき癌であれば、迂回路になっているバックアップ用DNA修復経路をブロックするPARP阻害剤という薬が役に立つ。 バックアップを含めたDNA修復機構が使えなくなればがん細胞は致命的なダメージを死に絶える。合成致死性を利用した治療である。

オラパリブ投与群は化学療法群に比べて無増悪生存(PFS)を有意に延長し、病勢進行または死亡のリスクを42%減少した(中央値 7.0ヵ月 対 4.2ヵ月、ハザード比 0.58; p=0.0009)(下図)との報告があります。

Olaparib for Metastatic Breast Cancer in Patients with a Germline BRCA Mutation. N Engl J Med. 2017 Jun 4. doi: 10.1056/NEJMoa1706450. [Epub ahead of print]
本試験は、HER2陰性(ホルモンレセプター陽性またはトリプルネガティブ)の生殖細胞系BRCA1またはBRCA2遺伝子変異陽性乳がんの患者さんを対象としたと報告されています。 これらの患者さんを、オラパリブ群(オラパリブ錠(300mg 1日2回投与))と医師が選択した標準的な単剤化学療法(カペシタビン、ビノレルビン、あるいはエリブリン)に、2:1に無作為に割り付けました。 最終的に302例の患者が登録され、205例がオラパリブ群に、97例が抗がん剤群に割り付けられました。
主要評価項目は無増悪生存(PFS)であり、副次的評価項目は2回目の病勢進行または死亡までの期間(PFS2)、客観的奏効率(ORR)、安全性と忍容性、および健康関連QOLでした。 結果を示します。

客観的奏効率(ORR)は、化学療法群が28.8%であったのに対し、オラパリブ投与群では59.5%であり、2倍以上のORRを示したの報告ですが、観察期間を2年経過したころの無憎悪生存率は決して良いとは言えません。長期にわたる化学療法は薬剤耐性の細胞を生み出し生物学的に進化を遂げるがん細胞を作りだしがん抑制遺伝子の重複的な欠損や変異との関係が予後に影響を与えると推測されます。これを考えた上で如何にがん細胞が生息しずらい身体づくりを治療に取り入れていく事を検討する必要があります。

相当組み換え修復
  • 細胞周期のS期、G2期に存在する、複製された染色分体の塩基配列を鋳型としてDNAを再合成する方法です。
  • BRCA1,BRCA2をはじめ複数のタンパク質が関与します。図(5)を参照

図9相当組み替え

DNAの損傷とP53の活性化

DNAの損傷とP53の活性化

  • P53の活性化によりDNAの損傷修復、細胞周期の停止やアポトーシスなどの出来事が強力に誘導されます。
  • P53の活性化とはp53のリン酸化である。P53アミノ末端領域がリン酸化されるが、この末端領域はMDM2結合する領域でもある。MDM結合はp53を不活化・分解する。p53とMDM2はフィードバックの関係性にあり恒常性を保つバランスシートである。
  • 2つの類似したキナーゼATMとATRが直接p53をリン酸化するかあるいはChk1及び2が活性化して近くの部位でp53をリン酸化することでDNA損傷に応答すると考えられる
  • ヒトBRCA1およびBRCA2乳がん抑制遺伝子における生殖細胞系列変異は、乳がんおよび卵巣がんに対する感受性を付与する
  • BRCA1およびBRCA2の変異は、ほとんどの遺伝性乳癌の原因であると考えられている(4)(5)(6)(7)

4. Miki Y, Swensen J, Shattuck-Eidens D, Futreal P A, Harshman K, Tavtigian S, Liu Q, Cochran C, Bennett L M, Ding W, et al. Science. 1994;266:66–71. [PubMed] [Google Scholar]
5. Wooster R, Neuhausen S L, Mangion J, Quirk Y, Ford D, Collins N, Nguyen K, Seal S, Tran T, Averill D, et al. Science. 1994;265:2088–2090. [PubMed] [Google Scholar]
6. Wooster R, Bignell G, Lancaster J, Swift S, Seal S, Mangion J, Collins N, Gregory S, Gumbs C, Micklem G, et al. Nature (London) 1995;378:789–792. [PubMed] [Google Scholar]
7. Tavtigian S V, Simard J, Rommens J, Couch F, Shattuckeidens D, Neuhausen S, Merajver S, Thorlacius S, Offit K, Stoppalyonnet D, et al. Nat Genet. 1996;12:333–337. [PubMed] [Google Scholar]

PTENがん抑制遺伝子の活用

(ホスファターゼテンシンホモログ)複合的な遺伝子の発現によって効果を上げる
PTENとBRCAは協調してDNAのダメージについてチェックポイントの上流で機能しますが、BRCAの機能不全の場合に、P53 の経路からChk1への働きかけを補助させたり、Cdc6shRNA治療でRbを活性化させるという別の経路を使用する必要があります。図の様々な経路に対してPTENがん抑制遺伝子によりAKTの抑制、 P16の活性化や 、CDC6ノックダウンによるP16ーRbがん抑制遺伝子の活性化といった具合に複合的に機能させる必要性があります。

図12 BRCA1とPTEN、P53,P21family:Rbの経路、チロシンキナーゼ受容体シグナル経路との相関関係の図

BRCA1と様々な遺伝子との関連性の図

図13

BRCA1とBRCA2の関連性の図

図14

AKTのシグナル経路と細胞周期の関係図(15)

  • 図9~14のように遺伝子の伝達経路は様々であるのでBRCA1/2欠損型であっても遺伝子の経路によって治療の選択肢は残っています。
  • ゲノムの不安定性は最終的に細胞死、アポトーシスを誘導する必要があります。P53やPTENといったがん抑制遺伝子の不活化はしばしばいくつかの発がんに関与します。
  • PTEN(ホスファターゼテンシンホモログ)は染色体10番にコードされた遺伝子でPI3K活性に拮抗するプロテインホスファターゼ活性と脂質ホスファターゼ活性を有する二重特異性ホスファターゼです。
  • PTENを欠いている細胞は恒常的に高いレベルのPIP3を有し下流のPI3K/AKTを活性化します。
  • BRCA1はよく知られた乳がん腫瘍抑制因子です。多くの研究でPTEN とBRCA1がDNA損傷応答に重要な役割を果たしています。
  • PTEN/BRCA1の応答によって細胞周期の停止に関与するRbがん抑制因子の活性化
  • また、ゲノムの守護神といわれるP53とのPTENの協調関係はP53 の抑制的な働きをするMDM2をその上流で抑制的な働きをPTENが関与します。
  • TNBC(トリプルネガティブ)には遺伝子P53、PTEN, RB1, BRCA1, BRCA2, ATR, ATM, MAP3K1;CDKN2A, ATR, CHEK1, CCND1, NOTCH2.といった遺伝子が非常に変異しており、影響を与えることが知られている(8)

8. Shah SP, Roth A, Goya R, Oloumi A, et al. The clonal and mutational evolu- tion spectrum of primary triple-negative breast cancers. Nature. Apr 4, 2012; 486(7403):395–9

遺伝子 乳がんのリスク
BRCA1 40~80%
BRCA2 20~85%
TP53 56%~90%
PTEN 25%~50%
STK11 32%~54%
CDH1 60%
ATM 15~20%
CHEK2 25~37%
PALB2 20~40%
BARD1BRIP1 MRE、
NBN、PAD50、RAD51
MLH、MSH2、GATA3

トリプルネガティブ乳がんとは、乳がん細胞に女性ホルモンのエストロゲン受容体とプロゲステロン受容体、HER2タンパクの3つの因子が陰性の場合のことをいいます。 基底様(Basal-like)乳がんとして分類されるタイプに属することが多く、遺伝性乳がんの原因遺伝子であるBRCA1に異常がある乳がんの性質がトリプルネガティブに近いものがあるといわれています。
トリプルネガティブは、乳がん全体の10~15パーセントを占めます。ホルモン剤や分子標的薬が効かないため、抗がん剤が標準治療では唯一の全身治療となります。

ホルモン受容体(ER and /or PgR)
陽性(約60~70%) 陰性
HER 陽性(15~25%) ホルモン療法 抗HER2療法 細胞障害性抗がん薬 抗HER2療法 細胞障害性抗がん薬
陰性 ホルモン療法 細胞障害性抗がん薬 トリプルネガティブ※細胞障害性抗がん薬

変だな?と思ったら迷わず検査をしましょう!

ステージ別の5年生存相対生存率はステージⅠ:100%、Ⅱ:96%、Ⅲ:81%、Ⅳ:39%です(資料:国立がん研究所センターがん情報サービス『院内がん登録生存率集計2013-14年診断例より』、乳がんは早期発見が第一に重要、恐れる病気ではありません。

※1)主に3センチ以下のの例が適応となる。適応外の場合には術前薬物療法を施行して腫瘍を縮小させた後、乳房温存療法を行うこともある。
※2)必要に応じて手術療法や放射線療法を追加する場合もある。

乳がんの薬物療法

  • 乳がんは診断時に全身のどこかに微小転移を起こしている可能性が高く、乳房だけでなく全身に対する治療として薬物療法が重要となる。
  • 薬物療法は腫瘍の縮小、再発予防、生存期間延長・緩和などの目的とがんの特徴を踏まえた個別化医療を検討することが肝要である
  • 乳がんに用いられる薬物には、ホルモン療法薬、細胞障害性抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤がある。

ゲノム医療個別化医療の時代:ゲノムの損傷パターンから治療法を探す

・TNBCには遺伝子P53、PTEN, RB1, BRCA1, BRCA2, ATR, ATM, MAP3K1;CDKN2A, ATR, CHEK1, CCND1, NOTCH2.tといった遺伝子が非常に変異しており、影響を与えることが知られている(9)
・遺伝子としてはERBB、CCNE1、PTEN、CCND1, CDKN2A, CDKN2B, CHEK1 が見つかったという報告があります。(10)
BRCA1 と BRCA2 の両方に二本鎖DNA修復に関与している(11)
遺伝子であるが、この二つの乳がん抑制遺伝子の欠損は家族性の遺伝性乳がんを発症するリスクが高くなることが知られています。 TNBCでは細胞障害性抗がん薬しか有効な治療がないと考えられてきました。しかしながら乳がんの遺伝子変異のメカニズムを生物学的な視点での解明が進んでいることから標準的治療に遺伝子治療を加えることで難しい進行性の乳がんや再発転移の乳がんに新しい治療法を提案しています
9. Shah SP, Roth A, Goya R, Oloumi A, et al. The clonal and mutational evolu- tion spectrum of primary triple-negative breast cancers. Nature. Apr 4, 2012; 486(7403):395–9
10. Curtis C, Shah SP, Chin SF, et al. The genomic transcriptomic architec- ture of 2,000 breast tumors reveals novel subgroups. Nature. Apr 18, 2012;486(7403):346–52
11. Silver DP, Richardson AL, Eklund AC. Efcacy of Neoadjuvant cisplatin in triple-negative breast cancer. J Clin Oncol. 2010;28(7):1145–53

  • ゲノム医療の時代に向かっていることは間違いないのですが、臨床の現場ではゲノム検査が普及するにはまだ少し先のことになってしまっています。2022年、ゲノムファイリングは保険収載されましたが、変異探し一辺倒の流れだけで分子標的薬の適応には制限があり、また、多剤併用療法による副作用はそれほど有毒なものにはならないだろうという分析が臨床現場の現実であり、新しい標的や組み合わせの探索に消極的であることは歪めない。
  • ケンブリッジ大学の遺伝子医学部門で研究チームを率いているニック・ザイナル博士は多くの乳がん患者の全ゲノム解析の研究からBRCA不良の印を確認したが1/3の患者には当該遺伝子の既知の変異が見つからないことを指摘しており、まだ未知の変異又は未知の要素があると述べています。しかしながらPARP阻害剤の適格は既知のBRCA変異が遺伝子検査で見つからないと適格にならないのです。このことに『仮に5人一人の乳がん患者が特定の変異を持っていなくてもPARP阻害剤に反応するとしたら本来治せるはずの患者を見過ごしていることになります』と語っています。まさにこれが分子標的薬の適応の制限という壁です。
  • 免疫療法も非常に魅力的ですが全員に効くわけではありません。最近、期待されている『免疫チェックポイント阻害剤』に好反応が期待できるがん患者さんの適格基準には改善の余地があります。対して免疫系がうまく目覚めない患者さんにはそれを促す代替手段を探さなければなりません。一方で相手のがん細胞は、自分自身の生息域を捕食するパトロール役の捕食性の免疫細胞から逃れる方法を細胞の進化で手に入れたり、休眠モードに入って免疫細胞に検知されるタンパク質の産生スイッチをオフにしたりしてきます。
  • 【まず第一に遺伝子多様性を減らす】生息地が失われる。環境条件が変わる等で、個体数が急減すると生き残った小集団は次の変化に弱い。小集団は遺伝子多様性が小さく、危機に直面した時適応できる幅が狭いのです。
  • 一度にできるだけ多くのがん細胞を殺そうという目的で『最大耐用量』で処方するという考え方は、薬の臨床試験の初期で、希望された被験者に投与する薬の用量を少しづつ上げていき重篤な副作用が出た瞬間にやめるというようなことを試したエビデンスに基づいています。このテストで薬の最大耐用量が決まりますが、遅かれ早かれ耐性がつくことを思えば最大耐用量を投与するという方法はわずかに余命延長のエビデンスから導かれているものであって、ロングサバイバーを目指す患者さんに対して害が大きすぎます。がんは遺伝子的に多様な細胞集団でできていて、その一部が治療に耐性をつけるのは我々生命体が地球上に存在し続けてきた進化の過程で獲得した生命力なのです。まずは根絶でなく抑制を目指し、腫瘍内にはいつも耐性細胞がいるという前提からスタートするべきなのです。がんの完治は、『腫の絶滅』から学ばなければなりません。
  • 集中的な化学療法や放射線治療による『第一の打撃』で大量にがん細胞を殺す。すると少数のがん細胞が生き残る。次に別の作用機序の薬で『第二の打撃』を与え、最初の薬に耐性のある細胞を殺す。その後に『第三の打撃』『第四の打撃』を与える。このような考え方はがんの絶滅を誘導する計画を考える上で大変重要であり、自然界の『種の絶滅』モデルと同じように環境条件、遺伝子のボトルネック、つまり小集団になることで適応や進化できる幅が狭くなり、近親交配が病気に弱いように危機に直面した時にあっという間に集団が消滅してしまうという理屈である。このように人体というがんの生息地に暮らす細胞集団に対する様々なアプローチが必要になるのです。とかく、『最初の薬が効いているのになぜ薬を変えるのか?』と思う医師や患者は少なくありません。しかしながら、がんを根絶させるには従来の方法よりずっと効果的なのは『第一の打撃』を与えたりした直後であったりしますので、このタイミングの図り方は腫瘍マーカーや血液データ等分子的動きの観察が大切になります。
  • 休薬期間に耐性がん細胞が増殖して勢力を回復することを防げるように私たちは遺伝子治療を化学療法の休薬期間に治療計画を立てます。したがって、使用される化学療法の機序を考慮しながら遺伝子治療の選択を検討する必要があります。
  • また、そのような耐性がん細胞が特定の栄養素に頼っていることからその栄養素を得にくい環境にしてやれば耐性がん細胞は生きづらくなり、非耐性がん細胞より優勢にならないと考えられます。生息地、環境条件を変える戦略をとることは治療効果上げる上で必須です。(ワールブルグ効果)
  • 進化理論の『二重拘束』と呼ばれる状態を作り出すには、がん細胞をある進化経路に誘導し、その後にがん細胞が自衛できないような新たな脅威にさらすというような考え方である。がん細胞の特徴を大きく10の特徴に分けた図をこのサイトでは示し様々な遺伝子経路を解説してきましたが、常にこの二重拘束の条件を使って投与の組み合わせを検討します。二つの矛盾した要求を受けるとどちらかに応じると他方には適応できない他方に脅かされるという生命進化論の鉄則を利用するのです。
  • 健康な細胞が増殖しやすい環境を用意するとがん細胞や前がん細胞等好ましくない細胞は締め出されます。例えば培養皿レベルのことではありますが食道の正常細胞と前がん細胞がいるところにブースターとしてアスコルビン酸を加えると正常細胞が増えて前がん細胞を追い出したという報告があります。即座にアスコルビン酸=ビタミンC摂取をがん予防法ということではありませんが、これは『適者生存の競争』をさせるということですからがん治療では、生息地の環境は最も重要な治療条件であるといって過言ではありません。

乳がんの薬物療法

画像検査で発見される前の微細ながん細胞をいかにして観察するか? 癌は分子レベルで治療することが肝要

血中循環腫瘍細胞 「Circulating Tumor Cells」=CTC

  • 末梢血中のがん細胞の数を測定するCTC検査が注目されています。
  • CTCとは「Circulating Tumor Cells」、日本語では「血中循環腫瘍細胞」または「末梢血循環腫瘍細胞」と言います
  • 原発腫瘍組織または転移腫瘍組織から遊離し、血中へ浸潤した細胞と定義されています。このCTCは固形がん患者の末梢血中に微小量存在しており、他部位への転移能を有している細胞を含んでいると考えられています。

臨床的意義
  • がんの再発・転移の予見ができます。
  • がんの発症を微細ながんの段階で予見します。

微細ながんとは

  • がん腫瘍は、画像検査で約5~7mm以上でないとなかな確認はできません。
  • 早期がんと呼ばれる10mm程の大きさに増殖するまでに約10年以上もの長い歳月を要します。
  • 近年、がん腫瘍が2mm位からCTCが血液中に存在していることが報告されています。
  • EMT(上皮間葉系)に移行したCTCに発現するサイトケラチンやビメンチン等のマーカーを使いCTCの特徴を把握することが肝要である。

上皮-間葉移行(Epithelial-to-Mesenchymal Transition 「EMT」)とphenotype
Transition from epithelial-like (epithelial) to cells of mesenchymal (mesenchymal) through transstable or metastable (metastable) cells 上皮様細胞から間葉系(間葉系)の細胞への移行は、転移性細胞を介して上皮間葉系に移行する

報告されたCTC数 勧告
0~2 12ヶ月ごとにCTC検査を実施することを推奨。危険性が高い対象者は、6~12ヶ月ごとにCTC検査を受けることが望ましい。がん抑制遺伝子点滴治療といった分子細胞療法を予防的に行う事を推奨。
3~4 他の検査結果(画像検査、腫瘍バイオマーカーの血液検査等)が正常であれば、3~6ヶ月ごとにCTC検査を受ける必要性がある。がん抑制遺伝子点滴治療といった分子細胞療法を行った後にCTC検査を実施することが望ましい。
5~10 対象者は直ちに詳しい検査を受けることが必要。他の健康診断結果が正常であれば、1~3ヶ月以内にCTC検査を受ける必要性がある。分子細胞療法でCTC数が5未満に減少した場合、CTC検査を3~6ヶ月ごとに受けることが望ましい。
≧11 対象者は直ちに詳しい検査と分子細胞療法を受けることが望ましい
適応
術前化学療法 化学療法等治療後CTC数が減少 化学療法後の治療のプロトコールが有効であるかを確認できる
化学療法治療後CTC数が増加 治療が最適でないと考えられるので治療方針の見直しを必要とする
術後再発リスクを予測 術前及び術後のCTC数が10を超える 画像検査、血液検査等の詳しい検査を受ける必要性が高い。また転移があるかどうかを検査する必要があります。
術前のCTC数が術前の値と比べ減少 【術後CTC数5未満】
術後、3~6ヶ月ごとにCTC検査を受けることを推奨
【術後CTC数が5以上】
転移性疾患を防ぐために詳しい検査と月に一度のCTC検査、また分子細胞治療の選択の為のCTCマーカー検査を検討する。
術後のCTC数が術前の値と比べて著しく増加 【高い再発の危険性】
転移性疾患を防ぐために詳しい検査を受け治療法の再検討を行う
治療効果の評価 治療後のCTC数が減少 治療が効果的と判断
CTC発現腫瘍マーカー 勧告
サイトケラチン(CK18) ヒトCK18(Cytokeratin 18)は、分子量45 kDaの低分子ケラチンで、ある種の腺癌や扁平上皮癌といった癌細胞で発現していることが知られています。ヒトCK18は、上皮性膀胱癌診断の指標として応用が期待されています。また、CK18に対する自己抗体の血中量によって、肺癌の組織型を識別できることが可能になったとの報告もあります。
ハーツー(HER2) HER2 遺伝子はヒト17 番染色体に存在し,細胞の分化・増幅・生存の制御に関与しており,腫瘍の増幅において重要な役割を果たしている。乳がん,卵巣がん,子宮がん,胃がん,膀胱がん,非小細胞肺がん,前立腺がん等でHER2 遺伝子の増幅またはタンパクの過剰発現が報告されている。HER2 遺伝子の増幅や過剰発現は乳がんの急速な浸潤,低いエストロゲン受容体量,悪性度の高い浸潤性乳管がんと関連し,この遺伝子が乳がんの浸潤に重要な役割を演じていることが知られている。また,25~30%の乳がん,子宮がんでHER2 遺伝子の増幅が見られ,10~30%の浸潤性乳がんでHER 遺伝子の増幅,またはHER2 タンパクの過剰発現が観察されている。一般にこのような患者はその予後不良であると言われている。
αフェトプロティン(AFP) AFPが基準値以上を示したら、第一に肝臓がんを疑い、肝臓がんで陽性を示すと考えられているマーカーです。
GFAP GFAP(Glia Fibrillary Acidic Protein)は,アストロサイトにおける細胞骨格を構成する細胞質性フィラメントタンパク質です。GFAPは,発生中の中枢神経系において,アストロサイトと他のグリア細胞とを区別する特異的なマーカーとなります。
CA19-9 CA19-9腫瘍マーカー検査は、すい臓がんや胆のう・胆管がんなどの消化器系のがんにおかされると、患者の血清中にCA19-9とよばれる物質が著しく増加します。この抗原は、膵臓のがん細胞によって大量に産生される異物で、膵臓がん患者の血清に増加が認められるため、他の腫瘍マーカーとともに膵臓がんの診断や治療のモニターとして利用されます。
メトテリン(Mesothelin) ほとんどの悪性中皮腫や膵癌の他、卵巣癌、非小細胞肺癌、急性骨髄性白血病、時に結腸癌、食道癌、胃癌などの細胞表面に発現することが知られており、ヒト悪性腫瘍のおよそ1/3にのぼる。細胞膜から遊離したメソテリン蛋白は、可溶型メソテリン関連蛋白質(SMRP)と呼ばれ、血液中や尿中でメソテリン濃度が異常高値になる腫瘍で、腫瘍マーカーとしての意義が予想される。
ビメンチン(Vim) 定型的な子宮体部あるいは頚部の類内膜腺癌はVimentin染色陽性、CEA染色陰性、p16染色陰性となる。癌肉腫も含め、癌腫の分化度が低くなるにつれて、サイトケラチンの発現は弱くなり、ビメンチンの発現が起こるようになる。また腎明細胞癌と嫌色素性腎細胞癌を鑑別する免疫染色パネルの一つとしてあげられている。
CD44v6 乳がん、胃がん、大腸がん、前立腺がん、頭頸部扁平上皮がんといった固形癌における主要ながん幹細胞マーカーとして知られている。
CD133(Prominin-1) 脳腫瘍、前立腺がん、大腸がん、膵臓がんのがん幹細胞の抗原と考えられています。Pentaspan膜貫通型糖タンパク質で、上皮及び他の細胞型の細胞膜突起部分に局在します。
上皮細胞接着分子(EpCAM) 悪性腫瘍の治療抵抗性において、癌幹細胞が重要な役割を担っていることが示されている。最近の研究結果から、従来の細胞障害性の抗癌剤や放射線治療は細胞分裂、増殖が活発な癌前駆細胞あるいはより分化した癌細胞を標的としており、腫瘍組織の階層性の頂点に位置する癌幹細胞の根絶には至っていないことが示されている。
上皮細胞接着分子Epithelial cell adhesion molecule(EpCAM)が癌幹細胞マーカーとして,機能していることを明らかにした[Motohara T, et al. Carcinogenesis.32:1597-1606,2011]
EpCAM+CD44+CD133=大腸癌幹細胞。EpCAM+CD44+PTEN=乳癌幹細胞。EpCAM+C-Kit=肺がん
肝臓がん幹細胞の場合、CD45 +AFPといった組み合わせで機能していると判断される
ヒト卵巣癌細胞株を用いたin vitroでの解析では、抗癌剤を添加することでEpCAM陽性細胞の割合が増加することが示された。さらに、in vivoにおける樹立したマウスモデルでの検討においても同様の結果が示されており、EpCAM陽性の腫瘍細胞は抗癌剤治療抵抗性に関与していることが証明された。
Chr-A Chromogranin Aは分子量49 kDaの酸性糖タンパク質で,神経内分泌細胞に広く発現しており,その分泌顆粒内に存在しています。また,小腸,大腸,副腎髄質,ランゲルハンス島など,体内のあらゆる場所に分布しています。Chromogranin Aはカルチノイド腫瘍,褐色細胞腫,傍神経節腫や,その他の神経内分泌腫瘍の有用なマーカーとして知られており,最近の論文では膵臓癌のマーカーとなる可能性も示唆されています。
PSA PSAは「前立腺特異抗原、prostate-specific antigen」の略語で、前立腺の上皮細胞から分泌されるタンパクです。
CA125 carbohydrate antigen 125( CA125)はヒト卵巣漿液性腺癌の培養細胞を用いて得られたモノクローナル抗体が認識し、卵巣がん、子宮がんに特異な反応を示す腫瘍マーカーです。
プログラム細胞死(PD-L1) がん細胞が免疫力を抑え込む仕組みが複数あるとされています。それが、「PD-1/PD-L1経路」です。「抗体による免疫逃避信号のブロック」(下図1)に示したように、T細胞ががん細胞を攻撃しようとしても、T細胞に発現する「PD-1」という物質と、がん細胞に発現する「PD-L1」という物質が結び付くとT細胞は攻撃をやめてしまいます。現在、盛んに行われているがんの免疫逃避機構を阻止する薬剤「免疫チェックポイント阻害薬」の使用の指標となります。「PD-1/PD-L1経路」に有効とされるのが、「抗PD-1抗体」や「抗PD-L1抗体」です。
細胞死受容体(DR4) 活性化T細胞、NK細胞、樹状細胞、好中球といった免疫細胞は、様々なサイトカインを分泌し、体内免疫を調節している。その中に、抗腫瘍性サイトカインの一種である、tumor necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand (TRAIL)も含まれる (下図2)。TRAILは、特異的受容体のdeath receptor (DR)4とDR5との結合を介して、標的となる細胞にアポトーシスを誘導する働きを担っている。DR4とDR5は、主に癌細胞に発現していることから、正常細胞への影響は少ないと考えられており、リコンビナントTRAILやDR4/DR5アゴニスト抗体の臨床試験が現在も進められている。さらに、TRAILやTAIL受容体をノックアウトしたマウスは発癌率の増加を示したことから、TRAILが癌予防に寄与していることが示唆されている。以上より、癌の治療と予防のいずれの観点からも、TRAIL経路を活性化することは有効な戦略と考えられる。

最新遺伝子治療:8種複合遺伝子治療(8種複合遺伝子治療)

乳がんの遺伝子治療では複合的に遺伝子を使用します。

  • 8種遺伝子治療
  • ここでは私たちの遺伝子治療に新たに加わったGATA3とKLOTHO(クロト遺伝子)の関連論文などを紹介します。

2010 Apr 30;285(18):14042-51. doi: 10.1074/jbc.M110.105262. Epub 2010 Feb 26

Wei Yan 1, Qing Jackie Cao, Richard B Arenas, Brooke Bentley, Rong Shao

Affiliations

  • PMID: 20189993
  • PMCID: PMC2859565 
  • DOI: 10.1074/jbc.M110.105262

GATA3, a transcription factor that regulates T lymphocyte differentiation and maturation, is exclusively expressed in early stage well differentiated breast cancers but not in advanced invasive cancers. However, little is understood regarding its activity and the mechanisms underlying this differential expression in cancers. Here, we employed GATA3-positive, non-invasive (MCF-7) and GATA3-negative, invasive (MDA-MB-231) breast cancer cells to define its role in the transformation between these two distinct phenotypes. Ectopic expression of GATA3 in MDA-MB-231 cells led to a cuboidal-like epithelial phenotype and reduced cell invasive activity. These cells also increased E-cadherin expression but decreased levels of vimentin, N-cadherin, and MMP-9. Further, MDA-MB-231 cells expressing GATA3 grew smaller primary tumors without metastasis compared with larger metastatic tumors derived from control MDA-MB-231 cells in xenografted mice. GATA3 was found to induce E-cadherin expression through binding GATA-like motifs located in the E-cadherin promoter. Blockade of GATA3 using small interfering RNA gene knockdown in MCF-7 cells triggered fibroblastic transformation and cell invasion, resulting in distant metastasis. Studies of human breast cancer showed that GATA3 expression correlated with elevated E-cadherin levels, ER expression, and long disease-free survival. These data suggest that GATA3 drives invasive breast cancer cells to undergo the reversal of epithelial-mesenchymal transition, leading to the suppression of cancer metastasis.

GATA3は上皮間葉転換の逆転により乳がん転移を抑制

Tリンパ球の分化と成熟を調節する転写因子であるGATA3は、早期の高分化乳がんでのみ発現するが、進行浸潤がんでは発現しない。しかし、その活性および癌におけるこの差動発現の根底にあるメカニズムについてはほとんど理解されていない。ここでは、GATA3陽性、非浸潤性(MCF-7)およびGATA3陰性浸潤性(MDA-MB-231)乳がん細胞を用いて、これら2つの異なる表現型間の形質転換におけるその役割を定義した。MDA-MB-231細胞におけるGATA3の異所性発現は、直方体様上皮表現型をもたらし、細胞侵襲活性を低下させた。これらの細胞はまた、E-カドヘリン発現を増加させ、ビメンチン、N-カドヘリン、およびMMP-9のレベルを低下させた。さらに、GATA3を発現するMDA−MB−231細胞は、異種移植マウスにおいて対照MDA−MB−231細胞に由来するより大きな転移性腫瘍と比較して、転移を伴わないより小さな原発性腫瘍を増殖させた。GATA3は、E-カドヘリンプロモーターに位置する結合GATA様モチーフを介してE-カドヘリン発現を誘導することが見出された。MCF-7細胞における小さな干渉RNA遺伝子ノックダウンを用いたGATA3の遮断は、線維芽細胞形質転換および細胞浸潤を引き起こし、遠隔転移をもたらした。ヒト乳癌の研究は、GATA3発現がE-カドヘリンレベルの上昇、ER発現、および長い無病生存率と相関することを示した。これらのデータは、GATA3が浸潤性乳癌細胞を駆動して上皮間葉移行の逆転を受け、癌転移の抑制につながることを示唆している。
2018 Oct;18(5):e1117-e1122. doi: 10.1016/j.clbc.2018.03.001. Epub 2018 Mar 8.

Bone Metastasis in Advanced Breast Cancer: Analysis of Gene Expression Microarray
Irawan Cosphiadi 1, Tubagus D Atmakusumah 2, Nurjati C Siregar 3, Abdul Muthalib 2, Alida Harahap 4, Muchtarruddin Mansyur 5

Affiliations

  • PMID: 29609951 
  • DOI: 10.1016/j.clbc.2018.03.001
  • Abstract
  • Background: Approximately 30% to 40% of breast cancer recurrences involve bone metastasis (BM). Certain genes have been linked to BM; however, none have been able to predict bone involvement. In this study, we analyzed gene expression profiles in advanced breast cancer patients to elucidate genes that can be used to predict BM.
  • Patients and methods: A total of 92 advanced breast cancer patients, including 46 patients with BM and 46 patients without BM, were identified for this study. Immunohistochemistry and gene expression analysis was performed on 81 formalin-fixed paraffin-embedded samples. Data were collected through medical records, and gene expression of 200 selected genes compiled from 6 previous studies was performed using NanoString nCounter.
  • Results: Genetic expression profiles showed that 22 genes were significantly differentially expressed between breast cancer patients with metastasis in bone and other organs (BM+) and non-BM, whereas subjects with only BM showed 17 significantly differentially expressed genes. The following genes were associated with an increasing incidence of BM in the BM+ group: estrogen receptor 1 (ESR1), GATA binding protein 3 (GATA3), and melanophilin with an area under the curve (AUC) of 0.804. In the BM group, the following genes were associated with an increasing incidence of BM: ESR1, progesterone receptor, B-cell lymphoma 2, Rab escort protein, N-acetyltransferase 1, GATA3, annexin A9, and chromosome 9 open reading frame 116. ESR1 and GATA3 showed an increased strength of association with an AUC of 0.928.
  • Conclusion: A combination of the identified 3 genes in BM+ and 8 genes in BM showed better prediction than did each individual gene, and this combination can be used as a training set.
  • Keywords: Advanced breast cancer; Bone metastasis; ESR1; Gene expression profile; NanoString microarray.

進行乳がんにおける骨転移:遺伝子発現マイクロアレイの解析

  • 背景:乳がんの再発の約30~40%が骨転移(BM)を伴う。特定の遺伝子がBMにリンクされています;しかし、骨の関与を予測することは誰にもできませんでした。本研究では、進行乳がん患者の遺伝子発現プロファイルを解析し、BMの予測に利用できる遺伝子を解明しました。
  • 患者および方法:BM患者46人およびBMなし患者46人を含む合計92人の進行乳がん患者が、この研究のために同定された。免疫組織化学および遺伝子発現解析は、81のホルマリン固定パラフィン包埋サンプルについて実施した。データは医療記録から収集され、6つの先行研究から収集された200の選択された遺伝子の遺伝子発現がNanoString nCounterを用いて行われた。
  • 結果:遺伝子発現プロファイルは,骨および他の臓器に転移する乳がん患者(BM+)と非BM患者とで22遺伝子の発現差が認められたのに対し,BMのみの被験者では17の有意差発現遺伝子を示した.以下の遺伝子がBM+群におけるBMの発生率の増加と関連していた:エストロゲン受容体1(ESR1)、GATA結合タンパク質3(GATA3)、および曲線下面積(AUC)が0.804のメラノフィリン。BM群では、以下の遺伝子がBMの発生率の増加と関連していた:ESR1、プロテロン受容体、B細胞リンパ腫2、Rabエスコートタンパク質、N-アセチルトランスーゼ1、GATA3、アネキシンA9、および染色体9オープンリーディングフレーム116。ESR1およびGATA3は、0.928のAUCとの関連強度の増加を示した。
  • 結論:BM+で同定された3つの遺伝子とBMの8つの遺伝子の組み合わせは,各個体の遺伝子よりも優れた予測を示し,この組み合わせはトレーニングセットとして使用することができる.
  • サイトケラチン(CK7)[10]およびGATA結合タンパク質3(GATA3)[11]は、乳房起源を確認するために一般的に使用される2つのマーカーである。

・CK7は、筋上皮細胞から管腔細胞を分化させるために乳房組織において最初に研究された[12]。その後の複数の研究で、CK7は、不特定乳がんの89~98%[ 12~14]、ほぼすべての髄質がん、乳房の微小乳頭がんの大半、およびすべての乳腺および乳房外パジェット病[15]で発現していたことが示されている。CK7はトリプルネガティブ乳がんの97%で発現し、14.5%が腫瘍細胞染色の20%未満を実証した[13]。その発現は、ほとんどの肉腫性(陽性率23%)および線維腫症様(陽性17%)成分で失われたが、転移性乳癌のマトリックス産生成分の71%では依然として保持されていた[12]。

・上皮のがん細胞がEMT(間葉系)に移行して血中に移動した血中循環腫瘍細胞の評価にサイトケラチンは有望である。

12. Altmannsberger M, Dirk T, Droese M, Weber K, Osborn M. Keratin polypeptide distribution in benign and malignant breast tumors: subdivision of ductal carcinomas using monoclonal antibodies. Virchows Arch B Cell Pathol Incl Mol Pathol. 1986;51(3):265–75.
13. Malzahn K, Mitze M, Thoenes M, Moll R. Biological and prognostic significance of stratified epithelial cytokeratins in infiltrating ductal breast carcinomas. Virchows Arch. 1998;433:119–29.
14. Tot T. Patterns of distribution of cytokeratins 20 and 7 in special types of invasive breast carcinoma: a study of 123 cases. Ann Diagn Pathol. 1999;3(6):350–6. 7. Ramaekers F, Van Niekerk C, Poels L, et al. Use of monoclonal antibodies to keratin 7 in the differential diagno Tot T. the cytokeratin profile of medullary carcinoma of the breast. Histopathology. 2000;37(2):175–81.
15. Gloyeske NC, Woodard AH, Elishaev E, Yu J, Clark BZ, Dabbs DJ, et al. Immunohistochemical profile of breast cancer with respect to ER and HER2 status. Appl Immunohistochem Mol Morphol. 2015;23(3):202–8. 9. Kim MJ, Gong G, Joo HJ, Ahn SH, Ro JY. Immunohistochemical and clinicopathologic characteristics of invasive ductal carcinoma of breast with micropapillary carcinoma component. Arch Pathol Lab Med. 2005; 129(10):1277–82
16. Liegl B, Leibl S, Gogg-Kamerer M, Tessaro B, Horn LC, Moinfar F. Mammary and extramammary Paget’s disease: an immunohistochemical study of 83 cases. Histopathology. 2007;50(4):439–47.

・GATA3はジンクフィンガー転写因子のGATAファミリーに属し、乳腺の発生と形態形成に関与している[17]。GATA3は、乳管内の管腔細胞の分化を維持する転写因子と考えられている[17]。
・乳癌で再発性変異を有する6つの遺伝子(TP53、PIK3CA、AKT1、GATA3、CBFBおよびMAP3K1)の1つである[18]。

  1. 17.Kouros-Mehr H, Slorach EM, Sternlicht MD, Werb Z. GATA3 maintains the differentiation of the luminal cell fate in the mammary gland. Cell. 2006; 127(5):1041–55.
  2. 18.Banerji S, Cibulskis K, Rangel-Escareno C, Brown KK, Carter SL, Frederick AM, et al. Sequence analysis of mutations and translocations across breast cancer subtypes. Nature. 2012;486(7403):405–9

・GATA3は乳がんの管腔サブタイプと関連していることが示されているが、エストロゲン受容体(ER)陰性腫瘍の88%はGATA3発現を保持していた[16]。トリプルネガティブ癌におけるその発現率は、アポクリン型トリプルネガティブ乳癌における74.6%とは対照的に、20.16〜48%の範囲であった[17,18]。発表された研究の大部分は、GATA3発現の喪失が予後の悪化と関連していることを示唆している[18]。

16. McCleskey BC, Penedo TL, Zhang K, Hameed O, Siegal GP, Wei S. GATA3 expression in advanced breast cancer: prognostic value and organ-specific relapse. Am J Clin Pathol. 2015;144(5):756–63.
17. Shaoxian T, Baohua Y, Xiaoli X, Yufan C, Xiaoyu T, Hongfen L, et al. Characterisation of GATA3 expression in invasive breast cancer: differences in histological subtypes and immunohistochemically defined molecular subtypes. J Clin Pathol. 2017;70(11):926–34. 17. Byrne DJ, Deb S, Takano EA, Fox SB. GATA3 expression in triple-negative breast cancers. Histopathology. 2017;71(1):63–71.
18. Guo Y, Yu P, Liu Z, Maimaiti Y, Chen C, Zhang Y, et al. Prognostic and clinicopathological value of GATA binding protein 3 in breast cancer: a systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2017;12(4):e0174843. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0174843 eCollection 2017. Review. PubMed PMID: 28394898; PubMed Central
PMCID: PMC5386271. 

GATA3は乳がん以外のがんでもその重要性が指摘されています。

osteosarcoma骨肉腫

OncoTargets and Therapy 2018:11 7579–7589

  • Background: GATA3 functions as a tumor suppressor and has been observed in multiple types of cancer, but the effects and mechanisms of GATA3 in osteosarcoma (OS) are not yet known.
  • Methods: The GATA3 expression in OS cells and tissues were detected using quantitative reverse-transcription PCR and Western blotting assay. CCK-8 assay, colony formation assay, wound healing assay as well as transwell assay, were performed to determine the effects of GATA3 on cell proliferation, migration and invasion. ChIP and qChIP as well as luciferase assay were performed whether GATA3 transcriptionally regulated slug expression.
  • Results: GATA3 was downregulated in OS cells and tissues. The GATA3 expression was closely associated with tumor size as well as metastasis. GATA3 significantly suppressed OS cells proliferation, migration and invasion. EMT-associated transcript factor, slug, was transcriptionally inhibited by GATA3, thereby regulation of EMT in OS.
  • Conclusion: GATA3 serves as a tumor suppressor in OS and suppresses the progression and metastasis of OS through regulation of slug.
  • 背景:GATA3はがん抑制因子として機能し、複数の種類のがんにおいて観察されているが、骨肉腫(OS)におけるGATA3の効果やメカニズムはまだ分かっていない。
  • 方法:OS細胞および組織におけるGATA3発現を、定量的逆転写PCRおよびウェスタンブロッティングアッセイを用いて検出した。CCK−8アッセイ、コロニー形成アッセイ、創傷治癒アッセイならびにトランスウェルアッセイを、細胞増殖、遊走および浸潤に対するGATA3の効果を決定するために実施した。ChIPおよびqChIPならびにルシーゼアッセイは、GATA3転写調節されたスラグ発現の有無を実施した。
  • 結果:GATA3はOS細胞および組織においてダウンレギュレートされた。GATA3発現は、腫瘍の大きさおよび転移と密接に関連していた。
  • GATA3はOS細胞の増殖、遊走および浸潤を有意に抑制した。EMT関連転写因子であるSlugは、GATA3によって転写的に阻害され、それによってOSにおけるEMTの調節が行われた。
  • 結論:GATA3は、OSにおける腫瘍抑制因子として機能し、Slugの調節を介してOSの進行および転移を抑制する。

Low expression of GATA3 promotes cell proliferation and metastasis in gastric cancer
GATA3の低発現は、胃癌における細胞増殖および転移を促進する
Cancer Management and Research 2017:9 769–780

  • : GATA3, a member of the GATA zinc finger transcription factor family, has been widely investigated for its role in cancer. Although a recent report has found that GATA3 is downregulated in gastric cancer (GC), the detailed mechanism of GATA3 in GC is still unknown. Here, we investigated whether GATA3 was downregulated in GC patients’ tissue samples and cell lines using quantitative real time polymerase chain reaction and Western blotting. In addition, we conducted several functional experiments to investigate the effect of GATA3 in GC, including cell proliferation, metastasis and epithelial–mesenchymal transition (EMT). The results showed that GATA3 was downregulated in GC tissue samples and cells. Moreover, the expression of GATA3 was associated with tumor size, stage and metastasis. Restoration of GATA3 levels suppressed GC cell proliferation, migration and invasion. Furthermore, chromatin immunoprecipitation and luciferase reporter assay also revealed that GATA3 transcriptionally regulated ZEB1, thereby suppressing EMT. All these findings suggest that GATA3 serves as an oncogene in GC development.
  • GATAジンクフィンガー転写因子ファミリーのメンバーであるGATA3は、癌におけるその役割について広く研究されている。最近の報告では、GATA3が胃癌(GC)においてダウンレギュレートされていることが分かっている。
  • 定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応とウェスタンブロッティングを用いて、GC患者の組織サンプルおよび細胞株においてGATA3がダウンレギュレートされたかどうかを調べた。さらに、GCにおけるGATA3の効果を調べるために、細胞増殖、転移、上皮間葉転換(EMT)など、いくつかの機能実験を実施しました。結果は、GATA3がGC組織サンプルおよび細胞においてダウンレギュレートされることを示した。さらに、GATA3の発現は、腫瘍の大きさ、病期および転移と関連していた。GATA3レベルの回復は、GC細胞の増殖、遊走および浸潤を抑制した。さらに、クロマチン免疫沈降およびルシーゼレポーターアッセイはまた、GATA3がZEB1を転写的に調節し、それによってEMTを抑制することを明らかにした。これらの知見はすべて、GATA3がGC(胃がん)発生において癌遺伝子として機能することを示唆している。

生命の糸をつむぐ女神の名前が由来の クロト遺伝子:乳がん治療の新な戦力

Klotho: a tumor suppressor and a modulator of the IGF-1 and FGF pathways in human breast cancer
I Wolf, S Levanon-Cohen, S Bose, H Ligumsky, B Sredni, H Kanety, M Kuro-o, B Karlan, B Kaufman,H P Koeffler & T Rubinek Oncogene volume 27, pages7094–7105 (2008)

・Klotho is an anti-aging gene, which has been shown to inhibit the insulin and insulin-like growth factor 1 (IGF-1) pathways in mice hepatocytes and myocytes. As IGF-1 and insulin regulate proliferation, survival and metastasis of breast cancer, we studied klotho expression and activities in human breast cancer. Immunohistochemistry analysis of klotho expression in breast tissue arrays revealed high klotho expression in normal breast samples, but very low expression in breast cancer. In cancer samples, high klotho expression was associated with smaller tumor size and reduced KI67 staining. Forced expression of klotho reduced proliferation of MCF-7 and MDA-MB-231 breast cancer cells, whereas klotho silencing in MCF-7 cells, which normally express klotho, enhanced proliferation. Moreover, forced expression of klotho in these cells, or treatment with soluble klotho, inhibited the activation of IGF-1 and insulin pathways, and induced upregulation of the transcription factor CCAAT/enhancer-binding protein β, a breast cancer growth inhibitor that is negatively regulated by the IGF-1-AKT axis. Co-immunoprecipitation revealed an interaction between klotho and the IGF-1 receptor. Klotho is also a known modulator of the fibroblast growth factor (FGF) pathway, a pathway that inhibits proliferation of breast cancer cells. Studies in breast cancer cells revealed increased activation of the FGF pathway by basic FGF following klotho overexpression. Klotho did not affect activation of the epidermal growth factor pathway in breast cancer cells. These data suggest klotho as a potential tumor suppressor and identify it as an inhibitor of the IGF-1 pathway and activator of the FGF pathway in human breast cancer.
・クロトーはアンチエイジング遺伝子であり、マウス肝細胞および筋細胞におけるインスリンおよびインスリン様成長因子1(IGF-1)経路を阻害することが示されている。IGF-1およびインスリンが乳癌の増殖、生存および転移を調節するように、我々はヒト乳癌におけるクロトーの発現および活性を研究した。乳房組織アレイにおけるクロトー発現の免疫組織化学分析により、正常な乳房サンプルでは高いクロトー発現が明らかになったが、乳癌では発現が非常に低いことが明らかになった。がんサンプルでは、高いクロトー発現は腫瘍サイズの縮小およびKI67染色の減少と関連していた。クロトーの強制発現はMCF-7およびMDA-MB-231乳癌細胞の増殖を減少させたが、通常はクロトーを発現するMCF-7細胞におけるクロトーサイレンシングは増殖を増強した。さらに、これらの細胞におけるクロトーの強制発現、または可溶性クロトーによる治療は、IGF-1およびインスリン経路の活性化を阻害し、IGF-1-AKT軸によって負に調節される乳癌増殖阻害剤である転写因子CCAAT/エンハンサー結合タンパク質βの上方制御を誘導した。共免疫沈降は、クロトーとIGF-1受容体との間の相互作用を明らかにした。クロトはまた、線維芽細胞増殖因子(FGF)経路の公知のモジュレーターであり、乳癌細胞の増殖を阻害する経路である。乳癌細胞における研究は、クロト過剰発現後の塩基性FGFによるFGF経路の活性化の増加を明らかにした。クロトは、乳癌細胞における上皮成長因子経路の活性化に影響を及ぼさなかった。これらのデータは、クロトーが潜在的な腫瘍抑制因子であることを示唆し、ヒト乳癌におけるIGF-1経路の阻害剤およびFGF経路の活性化因子として同定する。
Published: 05 October 2009

Functional variant of KLOTHO: a breast cancer risk modifier among BRCA1 mutation carriers of Ashkenazi origin
KLOTHOの機能的変異体:アシュケナージ起源のBRCA1変異キャリア間の乳がんリスク調節因子
Oncogene volume 29, pages26–33 (2010)Cite this article1255

・Klotho is a transmembrane protein that can be shed and act as a circulating hormone and is a putative tumor suppressor in breast cancer. A functional variant of KLOTHO (KL-VS) contains two amino acid substitutions F352V and C370S and shows reduced activity. Germ-line mutations in BRCA1 and BRCA2 substantially increase lifetime risk of breast and ovarian cancers. Yet, penetrance of deleterious BRCA1 and BRCA2 mutations is incomplete even among carriers of identical mutations. We examined the association between KL-VS and cancer risk among 1115 Ashkenazi Jewish women: 236 non-carriers, 631 BRCA1 (185delAG, 5382insC) carriers and 248 BRCA2 (6174delT) carriers. Among BRCA1 carriers, heterozygosity for the KL-VS allele was associated with increased breast and ovarian cancer risk (hazard ratio 1.40, 95% confidence intervals 1.08–1.83, P=0.01) and younger age at breast cancer diagnosis (median age 48 vs 43 P=0.04). KLOTHO and BRCA2 are located on 13q12, and we identified linkage disequilibrium between KL-VS and BRCA2 6174delT mutation. Studies in breast cancer cells showed reduced growth inhibitory activity and reduced secretion of klotho F352V compared with wild-type klotho. These data suggest KL-VS as a breast and ovarian cancer risk modifier among BRCA1 mutation carriers. If validated in additional cohorts, the presence of KL-VS may serve as a predictor of cancer risk among BRCA1 mutation carriers.
Klothoは、循環ホルモンとして放出および作用することができる膜貫通タンパク質であり、乳癌における腫瘍抑制因子である。KLOTHO(KL-VS)の機能的変異体は、F352VおよびC370Sの2つのアミノ酸置換を含み、活性の低下を示す。BRCA1およびBRCA2における生殖細胞系列変異は、乳がんおよび卵巣がんの生涯リスクを実質的に増加させる。しかし、有害なBRCA1およびBRCA2変異の浸透は、同一の変異のキャリア間でも不完全である。我々は、1115人のアシュケナージ系ユダヤ人女性(非キャリア236人、BRCA1(185delAG、5382insC)キャリア631人、およびBRCA2(6174delT)キャリア248人におけるKL-VSとがんリスクとの関連を調べた。BRCA1キャリアでは、KL-VS対立遺伝子のヘテロ接合性は、乳がんおよび卵巣がんリスクの増加(ハザード比1.40、95%信頼区間1.08-1.83、P=0.01)および乳がん診断時の若年年齢(年齢中央値48対43P=0.04)と関連していた。KLOTHOとBRCA2は13q12に位置し、KL-VSとBRCA2 6174delT変異との間の連鎖不均衡を同定した。乳癌細胞における研究は、野生型クロトーと比較して、増殖阻害活性の低下およびクロトーF352Vの分泌の減少を示した。これらのデータは、KL-VSがBRCA1変異キャリア間の乳がんおよび卵巣がんリスク調節因子であることを示唆している。追加のコホートで検証された場合、KL-VSの存在は、BRCA1変異キャリア間のがんリスクの予測因子として役立つ可能性がある。

Published: 12 May 2020
Klotho rewires cellular metabolism of breast cancer cells through alteration of calcium shuttling and mitochondrial activity
Riva Shmulevich, Tsipi Ben-Kasus Nissim, Ido Wolf, Keren Merenbakh-Lamin, Daniel Fishman, Israel Sekler & Tami Rubinek
Oncogene volume 39, pages4636–4649 (2020)Cite this article
・Klotho is a transmembrane protein, which can be shed and act as a circulating hormone and is involved in regulating cellular calcium levels and inhibition of the PI3K/AKT pathway. As a longevity hormone, it protects normal cells from oxidative stress, and as a tumor suppressor it inhibits growth of cancer cells. Mechanisms governing these differential activities have not been addressed. Altered cellular metabolism is a hallmark of cancer and dysregulation of mitochondrial activity is a hallmark of aging. We hypothesized that klotho exerts its differential effects through regulation of these two hallmarks. Treatment with klotho inhibited glycolysis, reduced mitochondrial activity and membrane potential only in cancer cells. Accordingly, global metabolic screen revealed that klotho altered pivotal metabolic pathways, amongst them glycolysis and tricarboxylic acid cycle in breast cancer cells. Alteration of metabolic activity and increased AMP/ATP ratio lead to LKB1-dependent AMPK activation. Indeed, klotho induced AMPK phosphorylation; furthermore, inhibition of LKB1 partially abolished klotho’s tumor suppressor activity. By diminishing deltapsi (Δψ) klotho also inhibited mitochondria Ca2+ shuttling thereby impairing mitochondria communication with SOCE leading to reduced Ca2+ influx by SOCE channels. The reduced SOCE was followed by ER Ca2+ depletion and stress. These data delineate mechanisms mediating the differential effects of klotho toward cancer versus normal cells, and indicate klotho as a potent regulator of metabolic activity.
クロトは膜貫通タンパク質であり、循環ホルモンとして放出され作用することができ、細胞カルシウムレベルの調節およびPI3K / AKT経路の阻害に関与する。長寿ホルモンとして、正常細胞を酸化ストレスから守り、がん抑制因子としてがん細胞の増殖を抑制します。これらの差異活動を支配するメカニズムは対処されていない。細胞代謝の変化は癌の特徴であり、ミトコンドリア活性の調節不全は老化の特徴である。我々は、クロトがこれら2つの特徴の調節を通じてその差異効果を発揮するという仮説を立てた。クロトーによる治療は解糖系を阻害し、癌細胞においてのみミトコンドリア活性および膜電位を低下させた。したがって、グローバル代謝スクリーニングは、クロトが乳癌細胞における解糖系およびトリカルボン酸サイクルを含む重要な代謝経路を変化させたことを明らかにした。代謝活性の変化およびAMP/ATP比の増加は、LKB1依存性AMPK活性化をもたらす。実際、クロトはAMPKリン酸化を誘導した。さらに、LKB1の阻害はクロトーの腫瘍抑制活性を部分的に消失させた。デルタプシ(Δψ)クロトを減少させることによって、ミトコンドリアCa2+シャットリングも阻害し、それによってSOCEとのミトコンドリア通信を損ない、SOCEチャネルによるCa2+流入を減少させた。減少したSOCEに続いて、ER Ca2+の枯渇とストレスが続いた。これらのデータは、がんと正常細胞に対するクロトの差異効果を媒介するメカニズムを描写し、クロトが代謝活性の強力な調節因子であることを示している。

Tumor Suppressor Activity of Klotho in Breast Cancer Is Revealed by Structure-Function Analysis
乳がんにおけるクロトのがん抑制活性が構造機能解析
2015 Oct;13(10):1398-407. doi: 10.1158/1541-7786.MCR-15-0141. Epub 2015 Jun 25.
・Klotho is a transmembrane protein containing two internal repeats, KL1 and KL2, both displaying significant homology to members of the β-glycosidase family. Klotho is expressed in the kidney, brain, and various endocrine tissues, but can also be cleaved and act as a circulating hormone. Klotho is an essential cofactor for binding of fibroblast growth factor 23 (FGF23) to the FGF receptor and can also inhibit the insulin-like growth factor-1 (IGF-1) pathway. Data from a wide array of malignancies indicate klotho as a tumor suppressor; however, the structure-function relationships governing its tumor suppressor activities have not been deciphered. Here, the tumor suppressor activities of the KL1 and KL2 domains were examined. Overexpression of either klotho or KL1, but not of KL2, inhibited colony formation by MCF-7 and MDA-MB-231 cells. Moreover, in vivo administration of KL1 was not only well tolerated but significantly slowed tumor formation in nude mice. Further studies indicated that KL1, but not KL2, interacted with the IGF-1R and inhibited the IGF-1 pathway. Based on computerized structural modeling, klotho constructs were generated in which critical amino acids have been mutated. Interestingly, the mutated proteins retained their tumor suppressor activity but showed reduced ability to modulate FGF23 signaling. These data indicate differential activity of the klotho domains, KL1 and KL2, in breast cancer and reveal that the tumor suppressor activities of klotho can be dissected from its physiologic activities.
・Klothoは、KL1およびKL2の2つの内部反復を含む膜貫通タンパク質であり、どちらもβ-グリコシダーゼファミリーのメンバーに対して有意な相同性を示す。クロトは腎臓、脳、および様々な内分泌組織で発現されるが、切断され、循環ホルモンとして作用することもできる。クロトーは、線維芽細胞増殖因子23(FGF23)をFGF受容体に結合させるために必須の補因子であり、インスリン様増殖因子-1(IGF-1)経路を阻害することもできる。広範囲の悪性腫瘍からのデータは、クロトーが腫瘍抑制因子であることを示している。しかし、その腫瘍抑制活性を支配する構造と機能の関係は解読されていない。ここで、KL1ドメインおよびKL2ドメインの腫瘍抑制活性を調べた。クロトーまたはKL1のいずれかの過剰発現は、MCF-7およびMDA-MB-231細胞によるコロニー形成を阻害した。さらに、KL1のインビボ投与は忍容性が良好であっただけでなく、ヌードマウスにおける腫瘍形成を有意に遅らせた。さらなる研究は、KL1がIGF-1Rと相互作用し、IGF-1経路を阻害することを示したが、KL2ではない。コンピュータ化された構造モデリングに基づいて、重要なアミノ酸が変異したクロトー構築物が生成された。興味深いことに、変異タンパク質は腫瘍抑制活性を保持していたが、FGF23シグナル伝達を調節する能力の低下を示した。これらのデータは、乳癌におけるクロトードメインKL1およびKL2の異なる活性を示し、クロトーの腫瘍抑制活性がその生理学的活性から解剖され得ることを明らかにした。
2019 Jul;21(7):504. PMID: 31507133

The Hormone KL1: A Regulator of Breast Cancer Cell Metabolism
ホルモンKL1:乳癌細胞代謝の調節因子
・KL1 treatment reduced glycolytic enzymes mRNA levels and the activity of hexokinase, similar to klotho treatment. Furthermore, KL1 reduced glucose uptake and decreased lactate production. KL1 elevated phosphorylated acetyl-CoA carboxylase and phosphorylated AMPK levels. Inhibition AMPK (using a mutant AMPK activator) stopped KL1 from inhibiting cell migration, suggesting AMPK underlies klotho’s tumor suppressor activity.
・KL1処理は、解糖系酵素mRNAレベルおよびヘキソキナーゼの活性を低下させ、クロトー処理と同様である。さらに、KL1はグルコース取り込みを減少させ、乳酸産生を減少させた。KL1はリン酸化アセチルCoAカルボキシラーゼおよびリン酸化AMPKレベルを上昇させた。AMPK(変異型AMPKアクチベーターを使用)の阻害は、KL1が細胞遊走を阻害するのを止め、AMPKがクロトーの腫瘍抑制活性の根底にあることを示唆している。
Lung Cancer
Volume 74, Issue 2, November 2011, Pages 332-33

Klotho predicts good clinical outcome in patients with limited-disease small cell lung cancer who received surgery
クロトは、手術を受けた疾患の限られた小細胞肺がん患者の良好な臨床転帰を予測している
・30人の患者のうち、Klotho発現は18人の患者(60.0%)の検体では見られたが、残りの12人の患者(40.0%)の検体では見られなかった。クロトの免疫染色は、ほとんどが細胞質に局在していた。クロトの発現は全生存期間(OS)と有意に関連していた

KLOTHO遺伝子

分子構造

1012アミノ酸からなるⅠ型膜蛋白質で細胞外領域にβ‐glucosidaseに相同性を示す2つのドメイン(KL1,KL2)がある。SSはシグナル配列。TMは膜貫通領域を示す。
KL1のみあるいはKL1,KL2からなる分泌型が存在し、腎尿細管、脳脈絡膜、副甲状腺で発現が認められている。

機能

Β‐glucosidaseとの相同性から糖鎖を加水分解する活性が示唆されています。
klotho変異により血中カルシウム濃度の上昇や腎臓や肺でのμ‐calpainの異常な活性が起こることが知られています。 細胞外カルシウムの低下に反応してNa⁺、K⁺、₋ATPaseを細胞膜に輸送してその活性を制御することからカルシウムホメオスタシスに関連する機能を持つことが知られています。

老化・老年病におけるKlothoの役割

Klotho変異マウスは生後3~4週間を過ぎたころから動脈硬化、肺気腫、骨粗鬆症、異所性石灰化などの症状を示すようになります。ヒト老化研究におけるモデルマウスとして様々な研究が進み老化を制御する機能の遺伝子として着目されています。

SODは、スーパーオキシドアニオン(O2)を酸素と過酸化水素(H2O2)へ変換する酸化還元酵素。
銅イオンと亜鉛イオン(Cu, ZnSOD)、マンガンイオン(MnSOD)、鉄イオン(FeSOD)などの金属イオンを持った酵素。
細胞質(Cu, ZnSOD) やミトコンドリア(MnSOD)に多く局在している。
寿命と相関するSOD活性
酸素消費量の多さに対してSOD活性の強さは、寿命と相関があると言われている。 SOD1は、細胞液中 SOD3は細胞外に存在する。

SOD-2(MnSOD)
ミトコンドリア内に存在し、ミトコンドリアで産生されたスーパーオキシド(ーO2)を毒性の低い過酸化水素と酸素に変換。
トレードオフ関係にあるSOD量
癌細胞を死滅させるにはスーパーオキシドが必要なため、SOD2が過剰にありすぎると、腫瘍転移の増大につながる。 一方でSODの過剰生産は活性酸素であるスーパーオキシドを抑制し、ハエの寿命を20%増加させるなど、SODの生産量はトレードオフの関係にある。

Klothoは生命の糸を紡ぐ重要な遺伝子

アミロイドβへの影響
SOD2の過剰発現は、アミロイド班の沈着を減少させ、ADマウスの記憶障害を改善する。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19666610/
www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2815734

MnSODノックアウトマウスでは、脳内のアミロイドβレベルおよびアミロイドβの負荷を有意に増加させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15147524/
SOD2の欠損は、アミロイド負荷を悪化させ、リン酸化タウレベルを増加させる。
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17579710/
アルツハイマー病の治療標的としてのSOD-2活性
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16687508
パーキンソン病、レビー小体型認知症患者での高いMn-SOD発現
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19298851
MnSODの神経保護効果
www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9482791/