糖尿病とがんの関係
糖尿病(主に2型糖尿病)は、日本人では大腸がん、肝臓がん、膵臓がんのリスク上昇と関連しています
国内外で発表された研究によると、糖尿病(主に2型糖尿病)がある方は、がんリスクが20%ほど高いことが報告されています。日本人では特に大腸がん、肝臓がん、膵臓がんのリスクが高いとされています。海外ではその他に、子宮内膜がん、乳がん、膀胱がんなどのリスク上昇と関係があるといわれています。一方で、糖尿病があると(なかでも肥満がある場合)前立腺癌のリスクは低くなるといわれています。
糖尿病がない方の場合、健康的な食事や、運動、体重管理、禁煙、節酒は、2型糖尿病およびがんの予防につながる可能性があります
2型糖尿病、がんは両方とも生活習慣と密接に関係している病気です。予防のためには、健康的な食事、運動、体重管理、禁煙、節酒が大切です。
糖尿病がある方にとっても、食事療法、運動療法、禁煙、節酒は、がんの予防につながる可能性があります
不適切な食事、身体活動量の低下、肥満、喫煙、過剰飲酒は多くのがんの危険因子です。そのため、健康的な食事、運動、体重管理、禁煙、節酒はがんの予防につながる可能性が指摘されています。糖尿病がある方でも、食事療法、運動療法、禁煙、節酒は血糖コントロールの改善だけでなく、がんの予防につながる可能性があります。
なぜ糖尿病だとがんのリスクが高くなるの?
まだ糖尿病自体ががんの原因となるかどうかについてはわかっていませんが、仮に糖尿病ががんリスクを高めているとしたら、いくつかの理由が考えられます。
糖尿病がある方でがんリスクが高まる理由としては、血液中のインスリン濃度が高いこと、血糖値が高いこと、炎症などが考えられています
血液中のインスリン濃度が高いこと
2型糖尿病がある方の多くは、インスリンが効きにくくなっているために血液中のインスリン濃度が高くなっています。血液中の過剰なインスリンは発がんに関与する可能性があると考えられています。ただし、インスリン注射により発がんが増えることは否定されています。
血糖値が高いこと
高血糖そのものによる酸化ストレスなどが発がんに関係する可能性があるといわれています。
炎症
2型糖尿病がある方では、無症状ですが全身に慢性的な炎症がみられることがあります。慢性の炎症は、発がんのリスクになると考えられています。 一方で糖尿病とがんは、加齢、肥満のほか、不適切な食事(赤肉・加工肉の過剰摂取、野菜・果物・食物繊維の摂取不足)、身体活動量の低下、喫煙、過剰飲酒といった生活習慣を危険因子とする点で共通しています。このことが、疫学研究などで糖尿病患者におけるがんリスク上昇がみられる理由である可能性が指摘されています。
糖尿病があると、がん発症リスクが上昇する。この明確な答えは出ていませんが、そのメカニズムはインスリン抵抗性とそれに伴う高インスリン血症、高血糖、炎症などが考えられています。 インスリン抵抗性とは、インスリンが分泌されても血液中のインスリン濃度に見合った血糖降下が得られず、血糖値が下がりにくい状態(インスリンの効きが悪い、もしくはインスリン感受性が低い状態)を言います。
遺伝的な要因と肥満、運動不足やストレスなどの環境要因が組み合わさってインスリン抵抗性が起こると言われています。インスリンの効果が減弱した状態が続くと、すい臓は血糖値を下げようとするため、インスリンをたくさん出そうとします。すると、その結果として、血液中のインスリン濃度が上昇し、高インスリン血症になります。このインスリン抵抗性と高インスリン血症が、がんの発症に大きく影響をおよぼしていると考えられています。
KLOTHO遺伝子治療でインスリンの抵抗性を改善する
KLOTHO遺伝子とは
現在自治医科大学分子病態治療研究センター抗加齢医学研究部教授の黒尾誠教授が、1991年国立精神・神経センターでの実験中に突然変異マウスをを見つけたことを発端に余分なリンを腎臓から排出させる老化抑制遺伝子を発見しました。
ギリシャ神話に登場する3人の女神のうちの1人『糸を紡ぐ者=クロトー(Klotho)』と二人の女神で運命の図を描くもの=割り当てる者=ラケシス(Lakhesis)そして、割り当てられた糸を切る者=不可避の者=アトロポス(Atropos)の3人のモイライの女神たちのひとりクロトーの女神の名にちなみ名づけられた日本の研究者が発見した遺伝子であり、脊椎動物の老化抑制遺伝子の発見として世界初の快挙として世界に知られています。
クロトーは人間の生命の糸を紡ぐ女神であり、人が生まれたときに大きな決定を下すようにしています。彼女は人生を通して生まれた人をコントロールし、誰が救われるか死ななければならないかも決める役割を持った女神なのですが、あの万能の神ゼウスまでも彼女たちの決定にしたがっていますから、絶対的な万物の摂理に等しい存在なのでしょう。
The KLOTHO gene was identified serendipitously through a hypomorphic allele that results in severe early degenerative changes and short lifespan ( Nature 1997). KLOTHO遺伝子は、重度の初期変性変化および短い寿命をもたらす低型対立遺伝子を介して偶然に同定された(Nature 1997)。 From Greek mythology “Klotho” was one of three Moirae. She is responsible for spinning the thread of human life, so that she mades major decisons when a person is born. She controls who born through his life she also decide who has to be saved or put to death. Two other sisters , Lachesis and Atropos, are responsible of human destiny and influence their misery and suffering. Clotho assisted Hermes to create the alphabet, and forced the goddess Afrodite into making love with other gods, killed the Titan Typhon with poison fruits and persuaded Zeus to kill Asclepius with a bolt of lightning.
私たちはこのクロトー遺伝子が産生するクロトーαたんぱく質を作り出すRNAを作成してがん治療やその他の疾患の治療の研究に取り組んでいます。
KlOTHO遺伝子でFOXO(腫瘍抑制因子)活性化しMnSODを活性化
SODは、スーパーオキシドアニオン(O2)を酸素と過酸化水素(H2O2)へ変換する酸化還元酵素。
銅イオンと亜鉛イオン(Cu, ZnSOD)、マンガンイオン(MnSOD)、鉄イオン(FeSOD)などの金属イオンを持った酵素。
細胞質(Cu, ZnSOD) やミトコンドリア(MnSOD)に多く局在している。 寿命と相関するSOD活性 酸素消費量の多さに対してSOD活性の強さは、寿命と相関があると言われている。
SOD1は、細胞液中 SOD3は細胞外に存在する。
SOD-2(MnSOD)
ミトコンドリア内に存在し、ミトコンドリアで産生されたスーパーオキシド(ーO2)を毒性の低い過酸化水素と酸素に変換。
トレードオフ関係にあるSOD量 癌細胞を死滅させるにはスーパーオキシドが必要なため、SOD2が過剰にありすぎると、腫瘍転移の増大につながる。
一方でSODの過剰生産は活性酸素であるスーパーオキシドを抑制し、ハエの寿命を20%増加させるなど、SODの生産量はトレードオフの関係にある。
Klothoはがん領域にとどまらない重要な遺伝子
SOD2の過剰発現は、アミロイド班の沈着を減少させ、ADマウスの記憶障害を改善する。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19666610/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2815734/
MnSODノックアウトマウスでは、脳内のアミロイドβレベルおよびアミロイドβの負荷を有意に増加させる。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15147524/
SOD2の欠損は、アミロイド負荷を悪化させ、リン酸化タウレベルを増加させる。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17579710/
アルツハイマー病の治療標的としてのSOD-2活性
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16687508
パーキンソン病、レビー小体型認知症患者での高いMn-SOD発現
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19298851
MnSODの神経保護効果
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9482791/
糖尿病とがんの共通因子
2型糖尿病とがんには共通のリスク因子があります。それは、加齢、男性、肥満、低身体活動量、不適切な食事(牛肉や豚肉などの赤肉、ハム・ソーセージなどの加工肉の摂取過剰、野菜・果物・食物繊維の摂取不足など)、過剰飲酒、喫煙などです。2型糖尿病を発症したり、悪化させたりする要因は、同時にがん発症リスクを上昇させることがわかっています。今まで、糖尿病治療のために行ってきた食事療法、運動療法や禁煙などは、がん発症リスクの低減にもつながります。
FGF23とクロトー遺伝子はリンが過剰になるのを防止査
腎機能が極度に低下して腎不全になると、摂取したリンを排泄しきれなくなり、リン恒常性が破綻して体にリンが貯留し、細胞外液中のリン濃度が上昇します。すると血中に不溶性のリン酸カルシウムが析出し、血清蛋白と結合してCPP(Calciprotein paritcle)というコロイド粒子が形成されます。CPPは動脈硬化や慢性炎症を誘導し、老化を加速する原因になります。 腎機能が保たれている人がリンを過剰に摂取すると、FGF23が上昇して尿中リン排泄量が増えるため、血中リン濃度は上昇しませんが、尿中リン濃度は上昇します。すると尿中にCPPが出現し、腎臓の老化が加速します。つまり「リンを摂り過ぎると腎臓が悪くなる」のです。
黒尾先生の書籍:『腎臓が寿命を決める』幻冬舎新書には、FGF23が『リンを排出して』という内容を載せたメールでその知らせを受け取る『メールBOX』がクロトー遺伝子だと思ってくださいと書かれています。
そしてクロトー遺伝子のメールBOXが壊れていたら、骨がリン排出依頼のメールを送っても受理されずに体内にリンがたまっていくいっぽうになる、一方で骨のFGF23のメールの発信機能が壊れていた場合も腎臓には一向にメールが届かずに体内にリンがたまってしまうと述べております。
肝臓・腎臓・膵臓が密接に関係しそのネットワーク管理を腎臓が担う
腎臓は『尿を作る臓器』と一般には理解されていますが、人体の体液成分を常に一定に保つ『管理人』の仕事を司り血圧を調整したり、ビタミンDを活性化したり、造血ホルモンを分泌したりといった仕事を行っています。こうした管理人としての仕事を骨、肝臓、すい臓、肺、心臓、腸などの各臓器とネットワークを構築して逐一連絡を取り合いながら行っています。
空腹時をうまく利用する他に腸内フローラの調整も治療の鍵
ホルモンとして機能するFGFは、FGF23の他にFGF21とFGF19があります。FGF21の受容体はβKlothoとFGFR1cの複合体です。βKlothoはαKlothoと相同性のある蛋白で、αKlothoと同様、FGF受容体と複合体を形成する性質があります。
FGF21は、空腹時に肝臓から分泌され、脂肪組織に発現するβKlotho-FGFR1c複合体に結合すると、脂肪分解などの空腹時の代謝変化を誘導します。また、FGF21は脳血管関門を通過し、視交叉上核に発現するβKlotho-FGFR1c複合体に結合すると、交感神経系や視床下部-下垂体-副腎系を活性化し、ストレス応答を誘導します。そして、FGF21を過剰発現するトランスジェニックマウスは寿命が著しく延長します。つまり、FGF21は「老化抑制ホルモン」と考えられます。
FGF19は、摂食時に小腸から分泌され、肝臓に発現するβKlotho-FGFR4複合体に結合すると、胆汁酸の合成抑制や蛋白の合成亢進などの摂食時の代謝変化を誘導します。空腹時の代謝変化を誘導するFGF21とは逆の作用があるFGF19ですが、老化との関係は今のところ明らかになっていません。しかし、胆汁酸が腸内細菌叢に強い影響を与えることや、腸内細菌叢の変化が加齢性疾患のリスクと関連することを考えると、FGF19も老化に影響を及ぼすホルモンである可能性があり、今後の研究課題として重要と考えています。
がん抑制遺伝子RBのメタボリック機能
Wnt経路は、古くから進化的に保存されている経路であり、胚の発生過程において、細胞運命決定、細胞移動、細胞極性、神経パターニング、器官形成などの重要な側面を制御しています。Wntは分泌型の糖たんぱく質であり、ヒトでは19のタンパク質からなる大規模なファミリーを構成している。このことは、シグナル伝達の制御、機能、生物学的出力が非常に複雑であることを示唆しています。これまでに、Fz受容体の下流には、Wnt/β-カテニン依存性の正規の経路と、非正規のβ-カテニン非依存性の経路(Planar Cell Polarity経路とWnt/Ca2+経路に分けられる)を含む主要なシグナル分岐が同定されており、これらの分岐は、分子および生化学レベルで活発に解明されています。
Wntシグナル伝達カスケードを模式図11。左は、Wntリガンドが存在しない状態で、Axin、APC、GSK3-β、CK1、β-カテニンの複合体が細胞質に存在している状態であり、β-カテニンは、CK1とGSK3-βによって二重にリン酸化され、β-TrCPを介したプロテオソーム機構によって分解される。右は、Wnt刺激により、Fz受容体とLRP5/6共受容体複合体を介したシグナル伝達により、CK1とGSK3-βによるLRP6の二重リン酸化が誘導され、Axinを含むタンパク質複合体が細胞質から細胞膜へと移動する。また、Dshも膜にリクルートされてFzと結合し、Axinはリン酸化されたLRP5/6と結合する。Fz/LRP5/6の膜で形成されたこの複合体は、Axinの隔離および/または分解を介して、β-catの安定化を誘導する。β-カテニンは核に移動し、Lef/Tcfファミリーと複合体を形成し、標的遺伝子の転写誘導を媒介する。
正規のWnt経路の特徴は、アドヘレンズジャンクション関連タンパク質であるβ-カテニンの蓄積と核内への移動である。Wntシグナルがなければ、細胞質のβ-カテニンは、Axin、adenomatosis polyposis coli (APC)、プロテインホスファターゼ2A (PP2A)、グリコーゲン合成酵素キナーゼ (GSK3)、カゼインキナーゼ1α (CK1α)からなるβ-カテニン破壊複合体によって分解される。 カゼインキナーゼやGSK3によるβ-カテニンのリン酸化は、β-カテニンをユビキチン化、プロテオソーム機構による分解の対象とする。
WntがFzとLRP5/6からなる受容体複合体に結合すると、β-カテニンの標的破壊に必要なAPC/Axin/GSK3複合体が破壊される一連のイベントが引き起こされます。WntがFz/LRP5/6複合体に結合すると、シグナル伝達の重要な負のレギュレーターであるAxinの膜移行が誘導される。
Axinは、LRP5/6の細胞質側の尾部にある保存された配列に結合する。Wntの刺激は、Axinの安定性も制御していることに注意する必要がある。Axinの膜移行に伴い、LRP5/6との結合は、CK1γまたはGSK3を介したLRP5/6のリン酸化によって触媒され、CK1とGSK3は、カノニカルシグナルの2つのレベルで異なる役割を果たしていると考えられています。
LRP5/6のレベルでは両者の影響は正であり、β-カテニンのレベルでは両者の役割は負である。Axinの結合は、AxinのWntシグナルに対する負の作用を取り除き、リンタンパク質Dshの活性化につながると考えられている。Dshは、カゼインキナーゼ1、カゼインキナーゼ2、 Metastasis Associated Kinase、Protein Kinase C40、Par1などの多くのキナーゼによってリン酸化される。
Dsh自体は、DIXドメイン、PDZドメイン、DEPドメインの3つの異なるドメインを含むモジュール化されたタンパク質であり、カノニカルなシグナル伝達においては、DIXドメインとPDZドメインがシグナル伝達の中心となっているようである。Dshが活性化されると、GSK3酵素の活性が阻害され、β-カテニンの分解が阻害され、その結果、β-カテニンが安定化して細胞質に蓄積されるという一連の複雑な事象が活性化される。β-カテニン自体は核局在化配列(NLS)を持たず、核内への移行にはインポリンタンパク質の機能やRanによる核内への取り込みが必要であると考えられている。
β-カテニンは他の因子と「ピギーバック」して核内に移行する可能性が提案されており、その一つが核内シャトリングを行うように見えるアクシンである44,45。β-カテニンの輸送に関しては、β-カテニンが核輸出配列(NES)を持っていないこともあり、2つのメカニズムが確認されている。1つは、NESを持つAPCタンパク質とともにRan結合タンパク質3(RanBP3)が関与するもので、もう1つはRanに依存せずに核膜孔複合体内のタンパク質が直接関与するものである。
核内でのβ-カテニンの結合相手は数多く発見されているが、最も特徴的なのはLEF/TCFDNA結合転写因子のメンバーであろう。この複合体は標的遺伝子のプロモータに結合する。この複合体は、標的遺伝子のプロモーターに結合する。これらの標的遺伝子には、SiamoisやTwinのような胚形成時のオーガナイザー形成に必要な遺伝子や、MycやCyclinD1のような癌形成に関与する遺伝子が含まれる。このようなことからもKLOTHOの抗がん的な働きはIGFのシグナル、Wntシグナル他非常に広範囲にその役割を担うものなのです。